医療従事者向けステートメント:COVID-19ワクチンの安全性及び有効性に関する規制方法(2022年5月17日改訂)
本和訳は英語が正文であり、あくまでも参考訳です。齟齬がある場合には英語が優先します。
薬事規制当局国際連携組織(ICMRA)と世界保健機関(WHO)の共同ステートメント
COVID-19に対するワクチン接種について患者と話し合う上で、医療従事者及び公衆衛生当局は中心的な役割を担います。ワクチンは、感染症による死亡や入院の予防に重要な役割を果たし、この疾患の蔓延の抑制に寄与しています。従って、ワクチンは感染や重症な疾患に対して大いに効果があります。ワクチン接種を受けた人も受けていない人も、パンデミックを局所的に抑えるために必要なさらなる防御行動を意識する必要があります。
世界的なCOVID-19パンデミックの影響により、ワクチンに対して一般市民の関心がかつてないほど高まっています。具体的に注目されているのはワクチンの開発や規制当局による審査、安全性監視などです。ワクチンに関する報道の多くは、マスコミやソーシャルメディアによって行われてきました。有害事象(副反応)の報告を受け、ワクチン接種を受けることに対する不安を口にしたり、ワクチン接種を受けることを遅らせたり、ワクチン接種に対して強く反対する人もでてきました。国の安全性監視システムに対する個人の信頼にも差があります。COVID-19ワクチン接種の重要性を伝える上でのもう1つの課題は、すべてではありませんが多くの小児や若年成人ではCOVID-19感染による臨床的な影響が少ないため、一部では、これらの集団へのワクチン接種は限定的な価値しかないとみなす人もいることです。従って、ワクチン接種の重大な選択を支援するためには、エビデンスやまだ分かっていないことについて、明確で一貫性のある情報提供が不可欠です。
ICMRAとWHOは、COVID-19ワクチンの開発、規制当局による審査、及び継続的な安全性監視に関して、医療従事者、その関係者及び患者がさまざまな疑問を抱えていることを承知しています。
目的
薬事規制当局国際連携組織(ICMRA)*と世界保健機関(WHO)の本共同ステートメントは、医療従事者がCOVID-19ワクチンの監視における規制当局の役割についての質問に答えられるよう支援することを目的としています。本ステートメントでは、ワクチンの安全性、有効性、及び品質を判定するための厳格な科学的評価がどのように行われるのか、そして、承認後においても安全性をどのように厳密に監視し続けるかについて説明します。
ワクチン接種は、COVID-19による死亡や重症疾患の減少及びCOVID-19の伝播の減少に寄与することが示されています。そのため、できるだけ多くの人にワクチンを接種し、病気の拡大を抑えることが重要です。かなりの割合の国民にワクチンを接種することで、脆弱な人(ワクチン接種を受けることができない人など)や、少ない割合ではあるもののワクチン接種後も感染のリスクがあるかもしれない人も保護されます。広範なワクチン接種ができなければ、ウイルスは引き続き蔓延し、変異型が発生してしまいます。中にはより大きなリスクをもたらす変異型も発生すると考えられます。広範なワクチン接種は、病気になる人や入院する人を減少させ、最終的には保健医療体制へのCOVID-19による負荷を軽減します。また、正常な社会的機能への復帰や経済の再開も後押ししています。
ワクチンと規制プロセス
規制当局によるCOVID-19ワクチンの評価方法
規制当局は、ワクチン製造業者が提供する科学的及び臨床的エビデンスを厳密に評価しています。ワクチン製造業者は、提供するデータについて規定された基準に従うことが法的に義務づけられており、ワクチン製造業者が行う臨床研究及び製造業務は規制当局の監視の対象となります。ワクチンの評価の一環として、規制当局は臨床試験の完全なデータ又は要約データのいずれかが入手可能となります。それぞれのワクチンは、安全性、有効性、品質が十分に評価され、使用が承認されるか否かが決まります。規制当局は、ワクチン候補のベネフィットとリスクを評価するために、前臨床研究、臨床試験及び製造情報から入手できる科学的エビデンスを用います。規制当局は、市販前審査及び安全性審査において、世界の規制当局と幅広く連携してきました。
規制当局は、ワクチンを承認するか否かの決定を通知できるよう独立した科学諮問委員会の専門家にさらなる助言を求める場合があります。これらの委員会は、科学、医学(感染症を含む)、公衆衛生の専門家で構成され、多くの場合、消費者や医療従事者の代表者も含まれます。
公衆衛生機関は、規制当局とは異なる役割を担っています。公衆衛生機関は、多くの場合、専門的な予防接種技術諮問委員会と協力して、予防接種プログラムの開発と実施を行います。具体的には、特定のワクチンを接種する集団の優先順位付けと指定、追加的な勧告の発表、ワクチンと予防接種に関するより広範な情報の提供などを行います。また、規制当局と協力して、使用が承認された後のワクチンの安全性監視も実施されます。
世界的に見て、より幅広い集団を対象としたワクチン使用を承認する前には、ワクチンの安全性、有効性及び品質を科学的に評価するための厳密なプロセスが適用されており、一般市民はこれを信頼できる状況にあります。
規制当局による承認前の安全性のエビデンス
安全性のエビデンスは、COVID-19ワクチンの各規制当局への承認申請において不可欠な要素です。安全性のエビデンスは、ワクチン開発プロセスの全段階で収集されます。臨床試験では安全性の厳格な評価が実施され、評価結果が承認プロセスの一環として審査のために規制当局に提出されます。
製造販売承認を得るための規制当局への承認申請書類の中で、すべての有害事象の調査及び報告が行われる必要があります。通常、規制当局は、緊急、暫定的又は条件付き承認プロセス下での決定に際して、臨床試験の参加者はワクチンの最終接種後、概ね少なくとも2ヵ月間にわたる追跡調査を受け、正式承認を付与する前には、さらに長期間の追跡調査を受けることを要件としています。現在、最も広く使用されているワクチンの多くについて、1年以上の安全性データが得られています。まれな有害事象は、広範な集団での使用後まで認識されないこともありますが、COVID-19ワクチンの現在の経験と他のワクチンのこれまでの経験に基づき、ほとんどの有害事象はワクチン接種の数日から数週間後に発生することが、臨床試験で確認されています。各ワクチンの臨床試験に参加した被験者については、臨床試験の標準的な方法であるより長期(例えば1~2年)の追跡調査や、幅広い集団に対する安全性に関する観察研究が行われます。こうしたより長期の試験及び集団研究から得られた安全性データは、承認後の安全性監視の一環として規制当局が入念に審査します。安全性データの評価が可能な集団の規模を拡大できるよう、世界の規制当局は安全性の審査で協働しています。
有効性
ワクチンによって誘発される免疫反応の種類に関する情報とは別に、企業は適切にデザインされた臨床試験のデータを規制当局に提出し、ワクチンがCOVID-19を予防することを示さなければなりません。データでは、ワクチンの有効性を正確に測定できるようワクチン接種を受ける十分な数の被験者が臨床試験に組み入れられたことが示されました(対照群の被験者に加えて、ワクチン接種を受ける被験者は一般的に10,000人以上、通常は15,000人以上)。臨床試験の集団には、さまざまな年齢層と併存疾患を有する患者が含まれている必要があります。COVID-19が高齢者に及ぼす深刻な影響を考慮し、COVID-19ワクチンの臨床試験には多数の高齢者を組み入れています。
新しいワクチン候補の臨床試験では、臨床検査で確認された新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染数を減少させることにより、ワクチンを接種した人ではワクチンを接種しなかった対照群と比較してCOVID-19の発症が極めて有意に減少したことが示されました。COVID-19ワクチンの集団接種が2020年12月に開始されて以来、数多くの実臨床での有効性評価を目的とした研究が査読付きの国際的な医学雑誌に掲載されています。幅広い集団での有効性データは、臨床試験の結果で得られた知見と一致しており、感染に対して高い有効性を示し、COVID-19感染症による重症化、入院、又は死亡に対してさらに高い有効性を示しています。1回又は2回の接種効果は、特に軽度の感染や新型コロナウイルスのオミクロン株に対して時間の経過とともに低下するため、3回目のワクチン接種の重要性が強調されています。
COVID-19ワクチンについては、参加希望でかつ参加が可能な人がほとんどいないため、一部の国では発症をエンドポイントとしたプラセボ対照有効性試験を実施することが徐々に困難になっています。適切にデザインされた免疫ブリッジング試験は、変異株、追加接種、及び小児集団などのワクチン認可のために容認できる代替アプローチです。中和抗体価は、ワクチンの有効性を予測する主要評価項目として適しているかもしれません。また、規制当局の承認を求める申請者は、適切な対照ワクチン、統計的基準及び対照ワクチンの接種者群(例えば、年齢、性別、接種歴/感染歴を一致させる)の選択が正当であることを証明していなければなりません。有効性データには、細胞性免疫を含む免疫原性プロファイルの比較特性や懸念される変異株に対するin vitroでの中和の比較特性も含めるべきです。
品質
規制当局の承認を受けたCOVID-19ワクチンは、国際的に合意された厳格な規制基準である医薬品の製造管理及び品質管理に関する基準(GMP)に従って製造しなければなりません。規制当局は、データを審査し、各製造所の製造工程が適切に管理され、一貫していることを確認します。対象のデータには、ワクチンの組成、純度、力価に関するデータの他、各バッチのワクチンが常に高品質であることを保証するために用いられる各製造段階及び管理に関するデータが含まれます。ワクチンの安定性に関するデータも、ワクチンの承認前に提供しなければなりません。承認後、バッチが国の要件が満たしていることを保証するために、供給前に各規制当局がバッチを評価することもあります。
ワクチン承認後の安全性及び有効性の監視
ワクチンの使用が承認された後は、規制当局は厳格な有効性監視、並びに安全性の監視及びリスク最小化活動を実施します(ファーマコビジランス)。規制当局は、ワクチンのベネフィットが常にリスクを上回ることを保証するため、ワクチンの安全性を継続的に監視する必要があります。規制当局は以下のアプローチを用いてこの監視を行います。
- 医療従事者や消費者から報告された有害事象の評価と分析を行うとともに、ワクチンの製造販売業者(「スポンサー」とも呼ばれる)に対して国内外で入手した有害事象について規制当局に報告することを求めます。
- 多くの規制当局は強化された有害事象自発報告の監視システムを導入しています。これらのシステムには、ワクチンに関して報告された疑われる有害事象の数を偶然起こり得る事象の数と迅速に比較するシステムや、さまざまな状況でのワクチンの使用に関するリアルタイムに近いデータへのアクセスなどが含まれます。いくつかの規制当局は、異なるワクチンのブランド及びバッチごとのトレーサビリティシステムも導入しています。
- リスクを軽減するための迅速な措置を講じるとともに、国際的な協力を通じて規制当局及び研究者間で共有される新たな安全性の問題に関する情報も考慮します。
- 新たな安全性情報に関する医学文献及びその他の情報を確認します。
- ワクチン製造業者に進行中の自社製品の臨床試験から安全性監視を継続するよう求めます。
- 多くの規制当局は、ワクチン製造業者に対し、ワクチンの安全性とベネフィット・リスクを評価し続ける認可後の安全性試験を含め、自社のワクチンに関連するリスクを監視し最小化する方法を記載したリスク管理計画を作成することも要求しています。
医療従事者及び医療機関は、患者に認められた有害事象を積極的に報告することに大いに尽力しており、これが継続されることが重要です。関連するすべての事象を報告することは、規制当局がワクチンの副反応を引き起こす可能性を評価し、新たに導入されたワクチンに関連する安全性の問題を特定するのに役立ちます。
ワクチンに関する安全性監視及び疑われるすべての有害事象に関する報告の評価の一環として、規制当局は「特に注目すべき有害事象」のリストを作成しました。これらのリストには、他のワクチンとの関連性が指摘されている、又は理論的に見てCOVID-19ワクチンと関連している可能性のある事象などが含まれています。特定の有害事象が特定のワクチンとの因果関係を示すというエビデンスがない場合でも、注意深い監視を行うことが重要な重篤な事象であるため、こうした事象がこのリストに含まれている可能性があります。ワクチン接種を受けていない人において予想されるこれらの事象の自然発生率に関する情報を把握することで、規制当局がこれらの事象の報告の増加に速やかに気づき、徹底的な評価と調査を行えるようになります。
高齢者や基礎疾患を有する患者を対象としたCOVID-19ワクチンの広範な使用は、ワクチン接種とは無関係の単なる偶発的な死亡や重篤な疾患が生じていることを意味します。各規制当局の任務は、関連する医療専門家からなる独立した委員会にしばしば支えられながら、ワクチン製造業者とともに、症例を評価し、ワクチンに潜在的な安全性シグナルがあるか否かを判定することです。妊婦、重度の基礎疾患を有する人、高齢者、小児、他の疾患を予防するためにワクチン接種を受けた人など、臨床試験に含まれていなかった、又は少数しか含まれていなかった可能性がある一部の集団に対しては、特に重点的に安全性監視を行います。
規制当局は、安全性の問題が特定された場合、多くの場合、公衆衛生当局と連携して強力な措置を講じることができます。これらの措置には、患者、医療従事者及び地域社会に対する安全性情報の提供、ワクチンに関する製品情報や消費者向け情報の更新、特定バッチのワクチンの流通停止、地域の特定集団に対するワクチン承認の制限又は承認の取消し等の規制措置を講じることが含まれます。規制当局は、ワクチンの既知及び潜在的ベネフィットが既知及び潜在的リスクを上回ると判断した場合にのみ、ワクチンの承認を決定し、その承認を維持します。
報告頻度の高い有害事象
COVID-19ワクチンに関して最もよく報告されている有害事象は、頭痛、倦怠感、筋肉痛、関節痛、発熱、悪寒、注射部位疼痛など、ワクチン接種でよく発生する副反応です。これらの有害事象の発現は、臨床試験で既に知られているワクチンの知見と一致しています。
特定のワクチンに関連する特に注目すべき有害事象
mRNAワクチン
mRNAワクチン(ファイザー製及びモデルナ製のワクチンを含む)について報告された、特に注目すべき最も重要な有害事象は、心筋炎、心膜炎及びアナフィラキシーです。心筋炎は心筋の炎症であり、心膜炎は心臓の周囲の膜の炎症です。これらは、mRNAワクチン接種後に非常にまれな有害事象として発生することがあります。一般的には10日以内に発症しますが、通常ワクチン接種後5日以内に発症しています。心膜炎の症状の発現は遅い場合があり、一般的には接種から2~3週間後に現れます。心筋炎及び心膜炎は通常軽度で、症状は通常、標準治療及び安静により短期間で消失します。一部の症例では、より重篤で入院治療を必要としますが、集中治療を必要とする症例はほとんどありません。
心筋炎は、12~17歳の男児及び30歳未満の男性の2回目の投与後に最も多く報告されています。モデルナ製ワクチンの接種者のほうが、ファイザー製ワクチンの接種者よりも心筋炎の報告率が高い国がありますが、報告された発症率は研究間で異なっており、国によって様々な要因の影響を受ける可能性があります。両ワクチンともベネフィットがリスクを上回っています。mRNAワクチン接種後の心膜炎は、心筋炎よりも年齢中央値が高い傾向がありますが、それでも高齢者よりも50歳未満の人に多くみられます。
心筋炎及び心膜炎が追加接種後に起こる可能性はありますが、これまでのところ、初回接種後よりもまれの報告となっています。これらの事象が初回接種後よりも重篤であることを示す徴候はありません。
mRNAワクチン(及び他のCOVID-19ワクチン)によるアナフィラキシーが報告されています。アナフィラキシーの報告は依然として非常にまれです(ワクチン接種者10万人に1例程度の割合)。通常のワクチン接種手順には、ワクチン接種後15分間以上は接種者を観察下におき、アナフィラキシーを速やかに管理できるよう適切に医学的措置の準備をしておくことが含まれています。何らかのワクチン成分に対して重度のアレルギー反応の既往歴がある人にはワクチンを接種するべきではありません。COVID-19ワクチンの1回目の接種後にアナフィラキシーが認められた患者には、そのワクチンの2回目を投与するべきではありません。
アデノウイルスベクターワクチン
アデノウイルスベクターワクチンには、アストラゼネカ、ヤンセン、国立ガマレヤ研究所、カンシノ・バイオロジクスのCOVID-19ワクチンが含まれます。これらのワクチンに関して報告された最も重要な、特別に関心のある有害事象は、血小板減少症を伴う血栓症(TTS)、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)及びギラン・バレー症候群(GBS)です。
TTSは極めてまれですが、血小板減少症(血小板数の減少)を伴う血栓塞栓性イベント(血栓)などの重篤な凝固症候群です。TTS症状は通常、ワクチン接種後4~30日の間に始まります。1回目接種後の10万人あたり約2人の割合で発症します。アストラゼネカ製ワクチンの2回目の接種後のTTSのリスクはこれより低く、10万人あたり0.5人未満に発現します。若い女性や60歳未満の人は、脳や腹部などの珍しい部位に血栓ができることが多いため、TTSによる重篤な結果となる可能性が若干高いようです。ヤンセンワクチンに関しては、血小板減少を伴う血栓塞栓性イベントが米国で報告されており、投与された用量100万回当たり約2~3回の割合です。
米国では、ヤンセン製ワクチンについても血小板減少症を伴う血栓塞栓性事象の報告があり、その発現率は接種100万回あたり約2~3件となっています。
免疫性血小板減少症(ITP)及びギラン・バレー症候群(GBS)は、アストラゼネカ製ワクチン及びヤンセン製ワクチン接種後に、約10万人に1人の割合で報告されています。ITPは、血小板が免疫系によって誤って破壊されたときに起こるまれな免疫反応です。アストラゼネカ製ワクチンの接種後にITPが疑われた患者では、血小板数が極めて低く、異常なあざ、鼻出血及び/又は口腔内血性水泡などの血小板減少症の徴候が認められました。ITPの人の約5%が重度の出血を起こします。極めて少数の人では、死に至ることもあります。
GBSはまれですが、ときに重篤な(まれに致死的な)免疫障害で、神経に影響を及ぼし、痛み、しびれ、筋力低下、歩行困難を引き起こすことがあります。GBSは、免疫系が活性化され、新型コロナウイルスなどの感染やワクチンが関連している場合に起こる可能性があります。GBSは通常、感染又はワクチン接種の数日後から数週間後に起こります。しかし、ときに何がGBSを引き起こしたか特定できないこともあります。
他にもいくつかのCOVID-19ワクチンが、一部の国では認可されています。他の製造ワクチンの有害事象については、国際的に入手できる情報はあまりありません。規制当局は、有害事象に関連するいずれのワクチンの間にも因果関係があるか否かを監視し、慎重に評価し、適切であれば、関連するワクチンの製品情報/添付文書に情報を含めます。
医療従事者は、現在投与しているワクチンに特有の安全性情報について、そのワクチンの自国における承認された製品ラベル/製品情報又はファクトシートを確認することが推奨されます。さらに、新たな安全問題が特定された場合、規制当局はウェブサイトやソーシャルメディアで医療従事者や消費者に警告を発します。
COVID-19ワクチンに関するQ&A
Q:ワクチンはどのような方法で非常に迅速に開発されているのでしょうか? その結果として、ワクチンの安全性と有効性が損なわれていないでしょうか?
A:COVID-19ワクチンの開発はいくつかの理由からかつてないスピードで行われていますが、ワクチンの安全性及び有効性の要件は損なわれていません。ワクチン開発が促進されたのは以下に示す理由によるものです。
- 他のワクチンの開発からの新技術の応用-mRNAワクチンは、COVID-19ウイルスの配列が決定されてから極めて迅速にCOVID-19に対して開発されましたが、基礎となる技術はかなり前から開発されていたため、非常に迅速に生産をスケールアップすることができました。アデノウイルスベクターワクチンに使用するアデノウイルス技術は、そもそもこの20年間にSARS、MERS、エボラウイルスに対して試験が実施されていたため、これらのウイルスといくつかの類似性を有するCOVID-19に迅速に適応させることができました。
- 臨床試験の成功-多数のボランティアを速やかに募集して臨床試験に組み込むことができました。不幸にも一部の国では感染率が高かったこともあり、10,000~50,000人を対象とした試験を短期間で完了することができました。通常であれば、ワクチンが有効か否かを判定するためにこの規模の試験を実施するには数ヵ月又は数年かかることもあります。
- 非常に密接な協力-世界の規制当局、業界及び臨床研究者間の非常に密接な協力により、規制要件の明示と結果の早期入手が可能になりました。
- 集中的で洞察に満ちた研究-研究者らは、ウイルス上の「スパイクタンパク質」がワクチン開発の適切な標的になると予測し、ほぼすべてのワクチンがこのタンパク質に対する反応を誘発するように設計されています。これまでのところ、スパイクタンパク質はワクチン接種者で強力な免疫反応を引き起こしており、臨床成績が報告されているワクチンではCOVID-19に対する高い防御能が認められています。
- 大規模な資金提供-政府、業界、慈善団体がワクチン開発への大規模な資金提供を行い、ワクチンの開発及び製造のために、グローバルな研究及び商業インフラの多くが方向転換しました。各国政府はまた、企業が規制当局の承認よりも先に、ワクチンの在庫を製造する商業的リスクを取ることができるようにしました。
- リアルワールド(臨床試験ではない実際の接種)における安全性の経験-2022年3月現在、約110億回分のCOVID-19ワクチンが世界的に投与されており、これらのワクチンの安全性については世界規模での膨大なデータベースが存在します。ベネフィットはリスクを依然として大幅に上回っています。
Q:mRNAワクチンはワクチン接種者のDNAに影響を及ぼしますか?
A:いいえ。ワクチンに含まれているmRNAはワクチン接種者の遺伝子に組み込まれることはなく、ワクチン接種後数週間で分解されることが分かっています。mRNAワクチンには、細胞に対して、mRNAの内容を読み取り、SARS-CoV-2スパイクタンパク質のコピーを生成するための内容だけが組み込まれています。このスパイクタンパク質によって、後にウイルスに曝露された際に、ワクチン接種者の自然免疫系が反応を引き起こすことができます。
Q:COVID-19ワクチン接種によって免疫を獲得した人はどのくらいの期間にわたって防御されるのでしょうか?
A:多くの「リアルワールド」でのワクチン有効性に関する研究から、異なるCOVID-19ワクチンの防御期間に関する情報が得られています。主要なmRNA及びアデノウイルスワクチンを2回接種したところ、新型コロナウイルスのオリジナル株(野生型)及び、変異株であるアルファ株とデルタ株による重症化、入院、死亡からの強力な(75%を超える)防御効果が6ヵ月間得られました。しかし、2021年11月下旬にオミクロン株が出現したことから、重症化や死亡に対する防御効果を回復し維持するためには、3回目(追加接種)が必要であることがエビデンスにより示唆されています。初期の結果は、重症化や死亡に対する防御が、3回目のワクチン接種後、何ヵ月以上も維持されていることを示しており、現在のところ、免疫不全状態の人を除いて、免疫を維持するために4回目のワクチン接種(2回目の追加接種)が必要であるという見解は広まっていません。初回ワクチン接種後に新型コロナウイルスに感染した人は、通常は軽症ですが、感染の重症度に対する防御は、ブースター接種なしでは経時的に低下するようです。
Q:追加接種には最初のワクチンと同じ種類のワクチンを使用すべきでしょうか?
A:最初の2回の接種後に追加接種(3回目の接種)として同じワクチンを使用(同種接種)した場合と、異なるワクチンを使用(交互接種)した場合に関して、調べた研究がいくつか発表されています。追加接種と初回コースのワクチンのほぼ全ての組み合わせが免疫応答の有意な増加を示しましたが、ほとんどの研究は、初回コースでmRNAワクチンかアデノウイルスベクターワクチンのいずれかを使用した後にmRNAワクチンを追加接種した場合に、免疫応答の最大の増加がもたらされたことを示しています。
Q:COVID-19変異体に対するワクチンは有効でしょうか?
A:主要なウイルスタンパク質の突然変異は、ウイルス変異株の出現をもたらします。SARS-CoV-2コロナウイルスは変異株を形成する変異を起こしやすく、その一部は世界各地で定着しています。科学界及び規制当局は、新たな変異株による感染及び病状に対するワクチンの防御について積極的な監視を行っています。例えば、2回のワクチン接種後にオミクロン株に対する防御のレベルと持続期間が低下したため、多くの国が2回目のワクチン接種から3ヵ月以上経過した場合に3回目の接種を行うこととしました。
現在、多数のワクチン開発者がさまざまな変異株に対するワクチンを開発中で、また一方で、多価ワクチンや汎特異的ワクチンの開発を試みている開発者もおり、これらは将来の変異株に対する防御となるかもしれません。
規制当局は、毎年新たな季節性インフルエンザワクチンを評価するのと同じように、変異株に対する免疫応答の評価に基づき、変異株に対するワクチンに関するデータの審査を円滑に進めることに同意しています。しかし、これまでのエビデンスから、免疫不全ではない人は現在のワクチンを3回接種することで、オミクロン株による重症化、入院、又は死亡に対する強力な防御効果が得られることが示唆されています。
Q:ワクチン候補が非常に多く存在する理由は何でしょうか?
A:パンデミックが世界的に深刻な影響を及ぼすことが急速に明らかになったことから、COVID-19に対する有効なワクチンの開発は、多くの製薬会社や医療研究機関の最優先事項となりました。また、ワクチン開発に対しては、政府及び民間セクターからかつてない巨額の投資も行われました。現在、新しいワクチンを開発するためのさまざまな技術が確立されており、COVID-19ワクチンを開発する組織の多くには、これらの技術の1つ以上において実績を有しています。上記の理由から、有効性、安全性又は製造上の課題が理由でいくつかのワクチンが承認されなかったとしても利用できるワクチンが確保されます。
Q:特定のCOVID-19ワクチンによって、多くの人に副反応がみられるようになった場合にはどうするのでしょうか?
A:注射部位の痛み、倦怠感、頭痛などの短期的な副反応は、どのCOVID-19ワクチンを接種した後にもよく見られます。これらの副反応は通常1~2日で消失します。特定の重篤な有害事象が特定のCOVID-19ワクチンに関連している可能性を示唆する新たなエビデンスが得られた場合、規制当局はグローバルな協力を通じて、その対策を講じるとともに、公衆衛生当局とも連携します。講じることができる措置の種類は有害事象の性質によって異なります。措置には、患者、医療従事者、地域社会に対して安全性についての警告を発すること、特定の患者(特定の合併症を有する患者など)における使用の禁忌を示すためにワクチンの製品情報又は一般向け情報を更新すること、特定の患者グループに対して有害事象の注意深い監視を行うこと、詳細が明らかになるまでワクチンの使用を一時的に停止することにより、特定のワクチンのバッチの出荷を防ぐことなど多岐にわたる内容が含まれます。
Q:小児はワクチン接種を受けるべきですか? COVID-19ワクチンは小児において安全ですか?
A:12歳未満の多くの小児では、新型コロナウイルスの感染はしばしば無症状、あるいは短期間かつ軽症です。COVID-19による重症化のリスクが高い小児としては、肥満、慢性肺疾患、先天性心疾患及び神経疾患を有する小児、並びに神経発達障害又はてんかんを有する小児などが挙げられます。オミクロン株流行下での小児を含む非常に多数のCOVID-19感染者数は、ほとんどの国において、COVID-19感染による小児の入院(及び、悲しいことですが、死亡も)を経験したことを意味しています。
ワクチン接種はまた、新型コロナウイルスに時間的に関連する小児多系統炎症性症候群(MIS-Cとしても知られる)を予防します。MIS-Cは、新型コロナウイルスに感染後、約3,000人に1人の小児に発症し、生命を脅かす可能性のある症候群です。ワクチン接種は、病気の減少に加えて、子どもの隔離(その結果として、教育や社会活動の途絶)の必要性も減らし、親の長期欠勤も削減する可能性があります。
小児用に承認されたmRNAワクチンのこれまでの経験では、ワクチンの忍容性は良好で、副反応が発現した場合には一般に軽度で、ワクチン接種部位の痛み、腫れ、赤みが、もっとも多く報告されている副反応です。また、心筋炎と心膜炎の症例は12歳未満のワクチン接種後では非常にまれで、その割合は10代後半や成人よりはるかに低いようです。
Q:妊娠中のCOVID-19ワクチンは安全ですか?
A:妊婦は、COVID-19ワクチンの臨床試験に意図的に組み入れられませんでしたが、2020年12月にワクチン接種が展開されて以来、COVID-19ワクチン接種(特にmRNAワクチン)と妊娠アウトカムに関して豊富な経験を得ました。多くの国での一連の研究が多数の妊娠を調査しており、医学文献で発表されたもの、及び、公衆衛生機関や規制当局が実施したCOVID-19ワクチン使用後のサーベイランスのいずれにおいても、ワクチン接種後に重篤な副反応、合併症、流産又は早産のリスクは高まりませんでした。
同時に、いくつかの研究では、COVID-19感染は、特定の女性の妊娠アウトカムに非常に深刻な影響を及ぼす可能性があり、mRNAワクチンを接種するベネフィットは、妊婦とその胎児のリスクを上回ることが示されています。さらに、最近のデータによると、妊婦のCOVID-19ワクチン接種は死産のリスク低下と関連しており、感染から28日以内に出産した妊婦における周産期死亡率は4倍以上高くなっています。
Q:規制当局はCOVID-19ワクチンの承認に要する時間をどのように短縮させていますか?
A:世界中の多くの規制当局が、安全性、品質及び有効性の厳格な基準を損なうことなく、COVID-19ワクチンに迅速にアクセスできる方法を導入しています。
- 一部の国々では、承認時に入手可能な限られたデータを評価する緊急使用許可(Emergency Use Authorisation)という方法を規定しています。国内に広がるパンデミックの状況下においてベネフィット対リスクを考慮した結果として、これらの国々では上記の規定の実行が重要とされます。 この経路、又は承認ルートは国によって名前が異なるかもしれませんが、基本的に同じ原則に従っています。
- その他の国々では、迅速/優先承認制度や条件付き承認制度、暫定的承認制度が導入されています。
- 通常の状況では、規制当局による評価は承認申請に関わるすべての情報が得られた時点で開始されます。COVID-19ワクチンについては、データが入手できるようになり次第、いち早く評価できるようにするため、多くの規制当局が段階的な随時のデータ受け入れに合意しています。規制当局は、使用目的に対してワクチンの安全性、品質及び有効性を十分に裏付けるデータが得られた場合に限り、ワクチンに対する暫定的な承認を決定することができます。暫定的承認又は条件付き承認が得られた場合、治験依頼者は合意した期限内に、より包括的で長期的な臨床データ、安定性データ及びその他の情報を提出することが求められます。
Q:COVID-19ワクチンの承認は自国で行われたのでしょうか、それとも他国の承認に依存しているのでしょうか?
A:各ワクチンの承認申請データに関する規制上の評価については、ほとんどの国が独自で行っています。一方で、資源及び専門知識をより効率的に利用できるよう、各国の規制当局は、安全性、有効性及び品質に関するデータについて緊密に連絡を取り合い、技術的な問題が生じた場合はそれについて協議しています。多くの場合、WHOのGood Reliance Practicesの原則や協調メカニズムには、他の規制当局のアウトプットが活用されています。
Q:アストラゼネカやヤンセンのワクチンについて血小板数の低下を伴う極めてまれな血栓症(TTS)や、mRNAワクチンでは心筋炎/心膜炎が臨床試験中に見つからなかったのはどうしてですか?
A:これらの有害事象はどちらも、発生は非常にまれで、接種10万回あたり約1〜2、3件です。これらのワクチンの臨床試験には多数の被験者が組み込まれていますが(ワクチン接種群は1万~2万人であることが多い)、この規模の試験でさえ、このような非常にまれに生じる事象が検出される可能性は統計的に低くなっています。ほとんどの医薬品やワクチンと同様に、TTSのような非常にまれな副反応は、大勢がワクチン接種をうけるまで確認されません。こうしたことから、非常にまれな事象を検出し、さらなる調査を行うために、実臨床下でのこれらのワクチンの使用中に継続的な安全性監視が重要となります。
ICMRAについて
ICMRAは、WHOをオブザーバーとして、世界の各地域から39の医薬品規制当局*の長を集めた組織です。 医薬品規制当局は、ヒトの健康と福祉に不可欠な安全かつ有効な高品質の医薬品へのアクセスを促進するうえで、自らが重要な役割を担っていることを認識しています。 ワクチンのベネフィットがそのリスクを上回ることを保証することが含まれます。
ICMRAは、世界の各地域の主要な規制当局からなる国際的な長官レベルの会合です。ICMRAは、医薬品規制当局に対しグローバルな戦略的フォーカスを提供するとともに、共有された規制上の事案及び課題に対して戦略的リーダーシップを発揮します。優先事項の一つとして、危機的状況に対する協調的な対応が挙げられます。
ICMRAのメンバーは次のとおりです:Therapeutic Goods Administration (TGA), Australia; National Health Surveillance (ANVISA), Brazil; Health Products and Food Branch, Health Canada (HPFB-HC), Canada; China National Medical Products Administration (NMPA), China; European Medicines Agency (EMA) and European Commission - Directorate General for Health and Food Safety (DG - SANTE), European Union; French National Agency for Medicines and Health Products Safety (ANSM), France; Paul-Ehrlich-Institute (PEI), Germany; Ministry of Health and Family Welfare (MoHFW),India; Health Product Regulatory Authority (HPRA), Ireland; Italian Medicines Agency (AIFA), Italy; Ministry of Health, Labour and Welfare (MHLW) and Pharmaceuticals and Medical Devices Agency (PMDA), Japan; Ministry of Food and Drug Safety (MFDS), Korea; Federal Commission for the Protection against Sanitary Risks (COFEPRIS), Mexico; Medicines Evaluation Board (MEB), Netherlands; Medsafe, Clinical Leadership, Protection & Regulation, Ministry of Health, New Zealand; National Agency for Food Drug Administration and Control (NAFDAC), Nigeria; Health Sciences Authority (HSA) Singapore; South African Health Products Regulatory Authority (SAHPRA), South Africa; Medical Products Agency, Sweden; Swissmedic, Switzerland; Medicines and Healthcare Products Regulatory Agency (MHRA), United Kingdom; Food and Drug Administration (FDA), United States.
アソシエイトメンバーは次のとおりです:Argentina national Administration of Drugs, Foods and Medical Devices (ANMAT); Austrian Medicines and Medical Devices Agency (AGES), Colombia National Food and Drug Surveillance Institute (INVIMA); Cuba Center for State Control of Medicines, Equipment and Medical Devices (CECMED); Danish Medicines Agency (DKMA); Egyptian Drug Authority (EDA); Ghana FDA; Icelandic Medicines Agency (IMA),
Israel Ministry of Health (MOH); Poland Office of Registration of Medicinal Products and Biocidal Products (URPLWMiPB); Portugal National Authority of Medicines and Health Products (INFARMED); Russia Federal Service for Surveillance in Healthcare (Roszdravnadzor); Saudi Food and Drug Authority (SFDA); Spanish Agency of Medicines and Medical Devices (AEMPS) and The State Expert Centre of the Ministry of Health of the Ukraine.
世界保健機関(WHO)はICMRAのオブザーバーです。
COVID-19の対応におけるICMRAの役割を含め、ICMRAに関する最新情報については、http://www.icmra.infoを参照してください。
世界保健機関(WHO)について
世界保健機関(WHO)は、国連システム内の公衆衛生において世界の指導的役割を果たしています。WHOは1948年に設立され、健康を増進し、世界の安全を保ち、弱者に奉仕するため、6つの地域にまたがり、149の事務所を置いて、194の加盟国と協力しています。2019~2023年の私たちの目標は、さらに10億人を超える人々にユニバーサル・ヘルス・カバレッジがいきわたるようにし、さらに10億人を超える人々を公衆衛生上の緊急事態から保護し、さらに10億人を超える人々に健康と福祉の向上をもたらすことです。
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