グローバルな医薬品品質知識管理: レギュラトリー・リライアンスとアジリティの向上
2021年6月11日
公衆衛生の保護は、医薬品規制の使命の中核をなすものであり、これには極めて重要な医薬品を継続的に利用可能とすることを支援して、患者のニーズを満たすことが含まれる。
ICMRAは、医薬品製造業者が、設備の経年劣化や供給業者の変更、イノベーションの開発、知見の獲得に伴い、頑健なサプライチェーンを維持しながら、製造工程を継続的に更新して変更や改善を取り入れられるようなアジリティ(機敏性)を求めていることを認識している。企業は、こうした変更を各社の医薬品品質システム内で管理し、さらに/または、変更に事前承認が必要な場合は、適時に規制当局の審査を求める。製薬業界は厳しく規制されており、またグローバル化されて複数の市場でサービスを提供していることから、企業は多くの場合、異なる時間枠で複数の国の規制当局からこれらの承認を得なければならないため、変更の実施が遅れる可能性がある。
ICMRAは、規制当局が、サプライチェーン内で発生する変更に関する規制当局間でのタイムリーな情報共有を促進する共通の手順、ガイドライン、要件を作成し、相互運用可能な共通基盤(インフラ)を整備することにより、効率化を図ることができると認識している。これには、変更を審査する他の規制当局へのリライアンスも含まれる。ICMRAは、こうした取り組みによって、承認スケジュールを短縮し、医薬品をよりタイムリーに患者に提供できるようになると考えている。
医薬品品質知識管理戦略の調和
ICMRAは、ICMRA加盟当局間の情報、専門知識、知見をさらに活用するための戦略的な取り組みに優先順位を付けることを支持する。これには、医薬品品質管理とリスク管理能力の状態について、タイムリーで完全な情報を確保し評価するための、医薬品品質に関する集約型の知識管理能力の構築が含まれる。想定される能力は以下のとおりである:
- 固有の施設識別子を用いて、調和のとれた構造化・標準化された電子フォーマットに移行することで、適切な規制情報として、リスクに基づく標的を絞った製造業者への監視強化を支援する品質情報の迅速な分析が可能なものにする。
- 医薬品製造施設に関する情報を安全に共有することができるもので、参加する複数の規制当局が恩恵を受け利用可能となりうる。
- コモン・テクニカル・ドキュメント(CTD)の品質モジュールで提出するデータ項目について、適切な時期における完全な調和を支援する枠組みを構築する。これにより、治験依頼者が関連するすべての規制当局に対して一つの製造販売承認申請で同時申請を行う道を開き、承認後変更(PAC)の管理における業界と規制当局の双方の能力を改善できる可能性がある。
- 治験依頼者に対する具体的なデータの要求事項及び規制当局間の審査基準を調和させる取り組みを通じて規制当局間の相互リライアンスを深め、加盟規制当局が信頼しようとしている他の規制当局の評価や関連する決定の同等性を確かなものにする。
戦略的マルチステークホルダー・アプローチ
ICMRAは、この取り組みを前進させるために世界の指導的役割を担い、戦略的ビジョンを提供している。この取り組みは、ICH(医薬品規制調和国際会議)、PIC/S(医薬品査察協定及び医薬品査察共同スキーム)、IPRP(国際薬事規制当局プログラム)などの、国際規制調和、協力、情報共有を行う経験豊富な既存機関による十分に調整された作業を通じて進めなければならない。
さらに、この取り組みのグローバルで多面的な性質を考慮すると、ICMRAは、専門知識を持つ業界内の他の主要ステークホルダーや他のセクターと定期的に関わり、継続的な品質改善に向けた、より共同的で協調的なアプローチを可能にする最善の方法及び技術的解決策について情報を得ることを推奨している。
それゆえ、ICMRAは、以下により、この機能を追求する戦略的マルチステークホルダー・アプローチを支持している。
- 品質評価及びデータ共有のための技術基準やアプローチに関する早期の取り組みに基づくこと。
- CTDの品質モジュールで提出するデータ項目の完全な調和に向けた主要件を一致させるためにICHを通して業界と協力すること。
- さらなるリライアンスの進展を目的に品質評価手法及び文書化の基準を検討し、整合させるため、IPRPを通じて規制当局に働きかけること。
- 品質の監視及び信頼性のための査察、評価ガイド、テンプレートをさらに調和させるため、PIC/Sを通じて査察官を関与させること。
- 商業上の秘密情報、個人データ、企業秘密情報を保護するために、先端技術を用いた新規及び既存のインフォマティクス及びソリューションを活用すること。
- 法的、技術的、財務上、運用上の考慮事項を含むがこれらに限定されない、あらゆる側面において、実用的で持続可能なアプローチを模索すること。
ICMRAは、この取り組みが変革的なものであり、このモダンでレジリエント(しなやか。弾性的)な能力を構築するには長期的かつ継続的な努力が必要であると認識している。ICMRAは、関係する他の国際的な薬事関連組織の協力を求め、医薬品規制当局、立法者、業界のイノベーターからなる国際的コミュニティに対して、世界中の患者の利益のためにこの取り組みを透明性、協調性、迅速さを持って推進するよう求める。
ICMRAについて
ICMRAは、WHOをオブザーバーとして、世界の各地域から30の医薬品規制当局*の長の集めた組織である。 医薬品規制当局は、ヒトの健康と福祉に不可欠な安全かつ有効な高品質の医薬品へのアクセスを促進するうえで、自らが重要な役割を担っていることを認識している。 ワクチンのベネフィットがそのリスクを上回ることを保証することも役割の一つである。
ICMRAは、世界の各地域の主要な規制当局からなる国際的な長官レベルの会合である。ICMRAは、医薬品規制当局に対しグローバルな戦略的フォーカスを提供するとともに、共有された規制上の事案及び課題に対して戦略的リーダーシップを発揮する。優先課題の一つとして、危機的状況に対する協調的な対応が挙げられる。
ICMRAのメンバーは次のとおりである: Therapeutic Goods Administration (TGA), Australia; National Health Surveillance (ANVISA), Brazil; Health Products and Food Branch, Health Canada (HPFB-HC), Canada; China National Medical Products Administration (NMPA), China; European Medicines Agency (EMA) and European Commission - Directorate General for Health and Food Safety (DG - SANTE), European Union; French National Agency for Medicines and Health Products Safety (ANSM), France; Paul-Ehrlich-Institute (PEI), Germany; Health Product Regulatory Authority (HPRA), Ireland; Italian Medicines Agency (AIFA), Italy; Ministry of Health, Labour and Welfare (MHLW) and Pharmaceuticals and Medical Devices Agency (PMDA), Japan; Ministry of Food and Drug Safety (MFDS), Korea; Federal Commission for the Protection against Sanitary Risks (COFEPRIS), Mexico; Medicines Evaluation Board (MEB), Netherlands; Medsafe, Clinical Leadership, Protection & Regulation, Ministry of Health, New Zealand; National Agency for Food Drug Administration and Control (NAFDAC), Nigeria; Health Sciences Authority (HSA) Singapore; Medicines Control Council (MCC), South Africa; Medical Products Agency, Sweden; Swissmedic, Switzerland; Medicines and Healthcare Products Regulatory Agency (MHRA), United Kingdom; Food and Drug Administration (FDA), United States.
アソシエイトメンバーは次のとおりである: Argentina national Administration of Drugs, Foods and Medical Devices (ANMAT); Austrian Medicines and Medical Devices Agency (AGES), Colombia National Food and Drug Surveillance Institute (INVIMA); Cuba Center for State Control of Medicines, Equipment and Medical Devices (CECMED); Danish Medicines Agency (DKMA); Israel Ministry of Health (MOH); Poland Office of Registration of Medicinal Products and Biocidal Products (URPLWMiPB); Portugal National Authority of Medicines and Health Products (INFARMED); Russia Federal Service for Surveillance in Healthcare (Roszdravnadzor); Saudi Food and Drug Authority (SFDA); Spanish Agency of Medicines and Medical Devices (AEMPS).
世界保健機関はICMRAのオブザーバーである。
COVID-19の対応におけるICMRAの役割を含め、ICMRAに関する最新情報については、http://www.icmra.infoを参照のこと。